【ご相談】
先日、父が亡くなりました。
私は10年ほど前に相続時精算課税制度を利用し、父から自宅の土地・建物の贈与を受けています。
相続日における父の財産を調べてみると、財産よりも債務のほうが多いことがわかり、相続放棄をしたいと考えています。
ここで相続税の申告について質問させてください。
(1)父から相続時精算課税により贈与を受けた財産はどうなるのでしょうか?
(2)相続税の申告は必要なのでしょうか?
【税理士長嶋の回答】
「相続放棄」と「相続税」はまったく別の問題ですので、区別して考える必要があります。
(ご質問1)
相続時精算課税制度により贈与を受けたご自宅の土地・建物は、相続放棄をしたとしてもご自宅の土地・建物を放棄することにはなりません。
相続放棄をしてもご自宅を失うことにはなりませんのでご安心ください。
(ご質問2)
相続放棄をした場合に、相続時精算課税により贈与を受けた財産が相続税の基礎控除を超えているときは、相続税の申告が必要となりますので注意が必要です。
【回答解説:相続放棄をしても贈与された財産を失うことはない】
相続放棄とは、相続する権利を放棄することにより、財産や債務を一切相続しないことをいいます。
相続時精算課税によりお父様から贈与を受けたご自宅の土地・建物は、贈与により取得をしていますので、ご相談者様の財産です。
贈与されたご自宅の土地・建物は、相続ではなく贈与により取得していますので、相続放棄をしたとしてもご相談者様の財産であることに変わりはありません。
そのため、お父様が亡くなられた後、相続放棄をしたとしても、贈与されたご自宅の土地・建物を失うことはありません。
【回答解説:相続時精算課税により贈与された財産は相続税の対象となる】
相続時精算課税制度により贈与された財産は、相続税を計算するときには相続税の対象となります。
相続放棄した場合には、相続時精算課税制度により贈与された財産だけが相続税の対象となります。
贈与されたご自宅の土地・建物が相続税の基礎控除を超えていれば、相続税の申告が必要となります。
なお、相続税の基礎控除の計算式は「3000万円+600万円×法定相続人の数」となっています。
相続放棄をした人は相続の放棄をしなかったものとして、法定相続人の数を計算する点に注意が必要です。
もし、贈与されたご自宅の土地・建物が相続税の基礎控除を超えていなければ、相続税の申告は不要となります。
この場合に、相続時精算課税制度を利用した際に贈与税の支払いをしているときは、あえて相続税の申告をすることで、既に支払った贈与税が戻ってきますので、この点にも注意が必要です。
【参考:死亡生命保険金を受け取っている場合】
お父様が生命保険に加入されている場合、相続を放棄したとしても死亡生命保険金を受け取ることができます。
もし死亡保険金を受け取っているときは、次の算式により計算した金額が相続税の基礎控除を超えているかどうかにより、相続税の申告が必要かどうかを判断します。
(算式)
相続時精算課税制度により贈与された財産+死亡生命保険金
なお、死亡生命保険金には非課税枠があり、非課税の金額は「500万円×法定相続人の数」により計算されます。
しかしながら、死亡生命保険金の非課税の適用を受けられるのは相続人ですので、相続放棄をした人は死亡生命保険金の非課税枠がないことに注意が必要です。
【相続税申告Q&A参考ブログ】
・相続時精算課税制度を利用した財産は遺産分割に含めますか?(2013.02.01)
・相続時精算課税制度を利用すれば一切税金はかからないのですか?(2012.11.20)
・相続時精算課税制度を利用したときの相続税(2012.06.14)